2014/06/29

プロリサーチャー喜多あおいさんの百発百中の情報収集術

「リサーチャー」というお仕事
この世の中に「リサーチャー」という職業があるのを初めて知った。
リサーチャーとは、テレビ番組などで出てくる情報をとにかく「調べる」のがお仕事。
「行列のできる法律相談所」に登場する弁護士や相談事例を探し出したり、
「タイムショック」のクイズ問題が正しいかどうかを「裏取り」したり、(問題を作るのは「クイズ作家」さん、裏取りをするのは「リサーチャー」の仕事)
「ハケンの品格」のドラマをつくるためにひたすら派遣社員さんにインタビューしたりネット掲示板などでリサーチしたり、
報道番組などのコーナーでおもしろおかしいネタを提供したり、コンプライアンス的に大丈夫かどうか様々な角度から検証をしたり……
などなど、情報・バラエティー番組、クイズ、ドキュメンタリーなどあらゆる領域で「リサーチャー」の方々が活躍しているそうだ。
昨日はその「リサーチャー」喜多あおいさん(株式会社ズノー ジーワン調査部 チーフリサーチャー)のお話を、池袋教育同人社で行われた「メディアリテラシー研究会」でたっぷりと伺うことができた。
喜多さんの本。すぐに本屋に走ってこれをゲットしたのはいうまでもない。


情報を扱うプロと素人は何が違うのか?
端的に言うと、情報を調べる「前」にどれだけ入念に戦略を立てられているかによるという。
素人は、取りあえずGoogle、取りあえずWikipedia、と場当たり的に調べるがそれでは決して効率的に求めたい情報にたどり着くことはできない。
①クライアントがほしい情報とはどのようなものなのか、クライアントと入念に打ち合わせをし
②こちらが提供する情報を具体的にイメージし
③その情報が得られるためのありとあらゆる情報収集手段を検討する。
④時間とコストに見合い、効率よく確実に情報を収集していく。
⑤収集した情報をクライアントの満足のいく方法で提供、プレゼンテーションする。
ざっと考えてプロリサーチャーはこのくらいの綿密さ、周到さで「情報を調べて、提供する」という仕事を行っている。

①のクライアントが求める情報(「お題」)をイメージできたら、「まずアホになって」(喜多さん談)頭の中を真っ白にして、求める情報が得られるキーワードをひたすら列挙していく。
いきなり調べるのではなく、お題に関して考えられるすべてのキーワードをピックアップし、それらを手がかりにソースを当たり、あらゆる情報を集めていく。
これが「網羅」とよばれるプロセスだ。
この「網羅」がなしに、ピンポイントで情報を調べようとするから失敗をする。
どんな情報が価値ある情報なのか比較をしないと見えてこないし、ピンポイントで情報を得ようとすると必ず「取りこぼし」という致命的な失敗をしてしまうからだ。
まずアホになって、必要な情報はどんな知識の網(ネットワーク)でつながっているか「情報地図」を作り、ひたすら熟考することからリサーチはスタートする。
(情報収集の初心者は、まずクライアントが欲しそうな「理想の情報」を、架空に二、三行程度自分で書いてみて、そのような理想の情報にたどり着くためにはどのようなキーワードや情報収集手段が考えられるか逆算してみるトレーニングを行うといいという)

プロが提供する情報はもちろん、確実に「裏取り」ができているものでなければいけない。
「……らしいですよ」「……かもしれません」などということはプロは言ってはいけない。必ず「出典」を明記し、「原典」に当たるということは当然の作法だ。
また、一つの情報源だけではなく、さまざまなバリエーションを持ったソースを用意しなければ説得力がない。
ゲットした情報をドヤ顔でクライアントに提供するのではなく、情報がどのように活用されていくのか「アフターイメージ」をもって提供することもとても大切なことだ。情報は物知りのマメ知識自慢ではなく、活用される知識となるべきだからだ。(発信した情報が曲解され、思わぬトラブルを発生するということもテレビ業界ではよく起こることだそうだ。コンプライアンス的な検討もとても大切)

短期間で効率よく、確実に情報をゲットするためには、以下の五つのソースを順番に当たることが重要だ。
①書籍
②新聞
③雑誌
④インターネット
⑤対人取材

プロは間違っても最初からWikipediaに飛びついてはいけない。はじめにウィキの情報を見てしまうと、それに影響を受けてしまうからだ。
まずは①書籍、書籍もAmazonだけでなく、あるサイトと抱き合わせで検索をする。
②新聞、雑誌もそれぞれのメディアの特性に合わせたリサーチ法を取る。
……

うーん、これ以上具体的なテクニックに踏み込んだ発信をここでするわけにはいけない。
上記の『プロフェッショナルの情報術』を読めば、目からウロコのテクニックが掲載されているので読んでみてほしい。喜多さんがどんな本やサイトで情報に当たっていくのか、検索ワードをどのように工夫すれば情報にヒットするのか。得た情報をどう発信するのか、その自家薬籠中のワザが満載!

【目次】(「BOOK」データベースより)
プロローグ テレビ番組リサーチャーの仕事とは?
1章 脳内に「情報地図」を描くー集める前に「居場所」を作り、戦略を練る
2章 プロのネタ取りは五つのソースで!-書籍、新聞、雑誌、インターネット、対人取材で「網羅」→「分類」
3章 集めた資料を「情報」に変えるー相手に伝わる「報告書」と、必勝「プレゼン」術
4章 仕事の質を上げる!情報に強くなる習慣術ーあなたの情報力はたった一分の会話でわかる
エピローグ 情報は生きている

プロのリサーチャーの言語生活
プロのリサーチャーは、普段どのような心がけで生活をしているのだろうか。
そういう日常的な生活習慣のお話もとても興味深かった。
ひとつには「固有名詞を使って話せ」という心構えだ。
たとえば、「好きな料理は?」と聞かれて「焼き肉!」と答えるのではなく、「叙々苑の骨付きカルビ!」のように固有名詞で答えた方がよい、ということだ。
固有名詞の方が情報の含有量が格段に豊かになる。「情報のフック」が多いのだ。
だから、その固有名詞を切り口にさまざまに受け手がイメージすることができるし、そこから会話も発展しやすくなる。固有名詞を使うほうが記憶にも印象にも残りやすいのだ。
これはなるほどと思う知見だった。作文でもスピーチでも「なるべく具体的な固有名詞を使って話そう」と次から言ってみることにしよう。

もう一つは「読み込まなくてもとにかく全部に目を通す」という心構えだ。
たとえば、新聞や雑誌などの定期刊行物は出版されたその日のうちに、どんなに忙しくてもページを全めくりして「見て」おくという。忙しいから後でゆっくり読もうと思っていても、そんな余裕は永遠に現れない。そして雑誌がどんどんたまっていく。
だから、見出しを目に入れておくだけでも、必要になったときに読んでおこうという気になるのだ。
同様に、本屋や百貨店では買う必要がなくても全フロアを歩き、目を通すのだそうだ。
こうしてフックとなる情報を普段からいかに無意識にため込んでいくかが後々の情報検索に威力を発揮するのだという。
ここで必要なのは「全部に」という要素だ。
好きな情報だけを得ようとすると情報が偏ってしまう。
とくにインターネットはAmazonのおすすめ機能のように、売りたい人に都合良く「編集」されていることがとても多い。
たとえばTwitterやフェイスブックなどのSNSは、自分が選択した情報だけが自動的に入る仕組みになっている。そしてそれが世の中のすべてだと錯覚してしまいがちだ。
だから喜多さんはたとえば「AKB」の情報を得たかったら、「モー娘。」の情報が得られるように、必ず両方、対極のTwitterアカウントをフォローするようにしているそうだ。
こうやって情報がバランス良く得ることができているか常に目配りをわすれないのだそうだ。

こうやって得られる情報は、無味乾燥な意味の塊では決してあり得ない。情報をそのときの感情とともにインプットしておくこともとても大切な心構えだそうだ。
ちらっと見かけた見出し、偶然立ち寄ったレストランでの料理、そういう種々雑多な情報を「おもしろいな」「おしゃれだったな」とそのときの「気持ち」も一緒に乗っけて印象にとどめておく。こうすることで、あとで情報を取り出そうとするときに引き出しやすくなるのだという。
こういうインプット方法も、今日からすぐに生かすことのできるテクニックだ。Twitterやフェイスブックなどはそのような「気分」を書き留めていくためには効果的なツールだろう。
このように、情報収集術は、単なるテクニックの集積でなく、それを支える膨大な「知識の引き出し」から生まれる。ただ、その「知識の引き出し」は、机に向かったり、難しい顔をして本を読むことだけでなく、ちょっと町中を意識して見回してみるとか、気になったらケータイで調べてみるといった日頃の心構えから積み重なっていくもののようだ。
そういう、自分を豊かにしていく情報に囲まれる生活を送っている喜多さんの姿は、わたしにはとってもまぶしく見えた。