2014/02/09

授業計画で学習スタイルを考慮して実施することにより,どのような効果が期待できるか

欧米では「学習スタイル」についてさまざまな研究がなされている。

最も有名なものがコルブの学習スタイル論である。
コルブは学習を,「学習とは経験の変換によって知識が形成される過程である」,と定義している。彼によると,経験学習は以下の6 つの特徴を持っているという。
1. 学習はプロセスであり結果ではない。
2.学習は経験に基づく絶え間ないプロセスである。
3.学習は社会に適応する過程で,下の図に示されるように,弁証法的に相反するモードを融
 合することによって生まれるものである。

4.学習は社会に適応するための全体論的なプロセスである。
5.学習は個人と環境との取引を含む。
6.学習は知識を創造するプロセスである。

コルブの学習スタイル理論によると,学習は,相反する外界との接触の仕方(能動的―熟考的,具体的―抽象的)の格闘の過程であり,学習スタイルとは,この外界との接触法の好みであるが,それは,時と状況に応じて変化するものであるとしている。

コルブは,学習スタイルとして,収束型 (converging style) ・発散型 (diverging style) ・同化型 (assimilating style)・適応型 (accommodating style),の4 つの学習スタイルを挙げた。こ
 の4 つの学習スタイルの特徴を以下に簡単にまとめてみる。
•タイプ1:収束型 (converging style)
主に抽象的概念,及び能動的実験により学ぶ傾向にある。問題解決,意思決定,アイデアの実践に優れ,感情表現は少なく,対人的問題よりも技術的問題に取り組むことを好む。
•タイプ2:発散型 (diverging style)
具体的経験と熟考的観察から学ぶ傾向にあり,想像力旺盛で,価値や意義について考えることが多い。状況を様々な角度から見,行動よりも観察により適応する。人との関わりを好み,感情を重視する。
•タイプ3:同化型 (assimilating style)
抽象的概念と熟考的観察を好み,帰納的に考え,理論的モデルを構築する傾向にある。人より抽象概念や理論に興味があり,実践的よりも理論的な考えを重視する。
•タイプ4:適応型 (accommodating style)
具体的経験と能動的実験により学ぶ傾向にあり,計画を実行したり,新しいことに着手することが好きである。環境に対する適応力が強く,直感的な試行錯誤によって問題解決をする場合が多い。気楽に人と付き合うが,忍耐に欠け,でしゃばりと思われがちである。

さて、このような学習スタイルを各人が持っているとして、授業計画で学習スタイルを考慮して実施することにより,どのような効果が期待できるか考えてみたい。

 まず、「学習スタイルを考慮した授業」にはどのようなものがあるか整理したい。学習スタイルについてはさまざまな理論があるが、その共通した要素として、
 ・それぞれの学習者にとって最も効果的な学習スタイルというものが存在する。
 ・その学習法は特定の教科などに限定せず、あらゆる学習に共通している。
 ・しかも、その学習スタイルは一時的なものではなくある程度の期間、維持し続ける。
の三点の仮説が考えられる。
 そのような要素を持つ学習スタイルが存在するものとして、それを考慮した授業として次のような方法がある。
 1、各人に適した学習スタイルで学ぶ方法。
 2、各人に適した学習スタイルを複数のグループで協同で学ぶ方法。
 3、お互いに異なる学習スタイルの学習者を集めてグループになり、協同で学ぶ方法。
 以下、1~3の授業方法についてのメリットとか大について論じる。
1と2の各人に適した学習スタイルで学ぶ方法は、課題に到達する最短距離であり、学習の能率がもっともはかどることだろう。各人の興味や関心に沿ったものであれば、意欲を持って課題に取り組むことができる。特に難易度が高い課題の場合は同じような学習の方略をとっている生徒同士で学び合うことで、お互いにアドバイスし合ったり教えあったりすることが可能になるものと思われる。しかしデメリットもある。それは、自分の持っている学習スタイル以外の学習方法に触れる機会が少なくなるという点である。生涯において学び続けていくことを考えれば、いつでも、どんな状況でも、自分の適した学習スタイルで学べるとは限らない。どんな方法でもそれなりに学んでいくことができるためには、一つの方法に固定するのではなく、さまざまな学習スタイルで学習できる状態にしておいた方がよい。コルブの学習スタイル論もそのような視点で学習スタイルの拡張と統合について論じている。
 そのような自分の学習スタイルを広げていくためには、さまざまな学習スタイルを持つ学習者と協同で学習に取り組むことで、他の学習者の学習スタイルの方法や有効性を学ぶ機会が得られる。また、他と比較して自らの学習スタイルについても振り返ったりすることができるであろう。自分とは異なる、他の学習者の取り組みに触れることで、自らの課題への取り組みや、自らの学習方略についてメタ認知することが得られる。そのような意図からも、1や2の方法よりは迂遠ではあるが、さまざまな学習スタイルを持ってる学習者同士で協同で学習に取り組んでいくことは意義のあることだと思う。そのときに教師は、学習者が自らの学習スタイルに自覚的になるように、メタ認知を促す働きかけが必要となるだろう。そうすることで、さまざまな学習スタイルを身につけ、そのときの課題に最も適した学習方略を選択する高度な思考能力の育成をすることができるであろう。