2013/11/01

理想の「研究授業」の4タイプ 論理・創造・批判・感性

教師の研修の機会として、研究授業を行うことは一般的によく行われていることである。
校内で授業研究をしたり、地域の研究組織で代表として授業をしたり、あるいは、熱心に研究に取り組む学校とか、研究指定などを受けた学校にいる場合は、学校全体が公開研究会を行って授業研究を行う場合もある。
「研究授業」を行うことは、教師にとってどんな意味を持つのだろうか。
日常の授業実践と、質的にどのような点が異なるのだろうか。
私の周りの狭い経験の中に過ぎないが、感じたことを記しておく。

多くの場合「研究授業」とは、学習指導案を精密に書くこととセットである。
研究授業といっても、ただ授業を見せて終わりというわけにはなかなかいかない。
授業を行う前に事前に学習指導案(指導案)をみっちりと検討することになる。
「研究授業=指導案づくり」といっても過言ではない。
指導案を書く前に、教科や学校ごとに研究主題を立てて、その主題を反映させた授業をすることが求められる。
もちろん、現行の学習指導要領や、地域など教育課題を踏まえることも重要なポイントとなる。
そのため、このタイプの研究授業では、次のような労力がそがれることとなる。
・学習指導要領の趣旨に沿った授業だろうか?
・最新の教育理論を反映させたものとなっているだろうか?
・研究主題との関連性はどうか?
・用語などで不明瞭なところはないだろうか? 飛躍や言い過ぎている表現はないだろうか?
・評価規準が曖昧ではないだろうか?
などなど。
このタイプの研究授業で必要な能力は「精密な指導案を書くこと」である。
やや過激な言い方をすれば、いい指導案さえ書ければ、当日の授業が多少ぐだぐだでも「実は指導案ではこうなっていたんです……」と言い逃れができる。
ここでのいい指導案とは、
ねらいとか、学習活動とかがすっきりと筋が通っている。
生徒の実態を的確につかみ、それを文章化している。
研究主題との整合性もぴったりだ。
などの要素を含むものである。

この、「指導案作成重視」の研究授業(あえてこう呼ぶが)の授業者にとってのメリットは、
授業の構造を明確に文章で説明するための論理的な表現力が身につくこと。
学習指導要領の趣旨の理解や、最新の教育課題について、一定の見識を身につけることができること。
などがあげられるだろう。
しかし、デメリットもある。それは、
つじつま合わせの作文能力だけが身について、指導案を実証するアリバイづくりのための授業に意識が向いてしまう。
指導案に縛られて、授業で最も重要な、子どもとの相互作用や、「勘」のようなものが犠牲になる危険性がある。
自由な発想よりも、学習指導要領などで要請されてる事柄に縛られてしまう。
そのため、研究授業の成果が、日常の授業にあまり生かされなくなってしまう。
このような、日常よく見られる研究授業を、A「論理型」研究授業と名付けよう。
感性や自由な発想よりも、指導案の「論理」が優先するという理由である。

わたしはかねてから「指導案検討重視の研究授業」で本当に良いのかという迷いがずっとある。
もっと実践的な授業力を伸ばす研究授業ができないものだろうかとあれこれ頭をひねっている。
そこで、指導案検討重視の研究授業を克服するための研究授業のプランを3つほど提案する。
創造型・批判型・感性型である。
下手な鉄砲も数打ちゃ当たるということばもあるし、3つも代案が出せれば十分だろう!?

B「創造型」研究授業
A「論理型」研究授業ではとらえられない、自由な発想を奨励するために、次のような「創造型」研究授業はどうだろうか?
・指導案は書かず(書いても書かなくても、重視しない)それぞれの自由な発想が発揮されることを奨励する。
・大まかなテーマを決め、それに対する多様なアプローチを模索する。
(たとえば「思考力」とか「読書活動」という大まかなキーワードだけ示し、それについて迫る授業を各自で考えて実践する)
・事前の指導案検討はしない。
・それぞれが授業をしてみて、それを見た参観者が、授業者のどのような発想が感じられたか、どんな気づきが得られたかを交流し合う。(唯一のアプローチを生み出すのではなく、多様な解決策の選択肢を増やすことをねらいとする)

C「批判型」研究授業
現行の学習指導要領や、最新の教育理論を批判的に検討するための研究手法。
次のような流れで行う。
まず、文科省や有名な実践家の授業実践などを校内研究で詳細に検討する。
それらの実践の良いところ、課題を挙げる。
その上で、それとは別のアプローチの授業案を各自で(またはチームで)考える。
批判的に検討するところまでは、校内でがっちりと行い、それへの代案については各自の裁量で取り組むことを求める。
Aの論理型の研究授業では、文科省や有名な実践家の実践をそのまま模倣するパターンが多いが、あえてその問題点を考究し、代案を考えるというスタンスで行う研究である。(相当頭を使うけど、きっといろんな発想が生まれて楽しいかも)

D「感性型」研究授業
授業行為における、論理以前の感性について検討するための研究手法。
やり方は簡単!
とにかく、授業を2人でやってもらうことにする。(同時間、同クラスの授業で)

2人でコラボして授業プランを考える。
指導案は書いても書かなくても良い。
漫才の掛け合いのように相互で役割を決めても決めなくても良い。
ともかく、2人で授業を行う。
T1とT2のようなどちらかが補助の形ではなく、なるべく対等の立場で授業に関われるようにする。
授業をしてみて、お互いが気づいたこと、子どもの見え方を述べ合う。
(2人の授業に対する構えや、見え方を交流するのである)
斎藤喜博の介入授業みたいな感覚?
ジャズのように即興的な対応ができればとても楽しい授業研究になるはずだ。
詳細な打ち合わせなしで行き当たりばったりでやったらいったいどうなるんだろう!
この手探り感、両者の感性や授業観をその場ですりあわせていくことこそが、このタイプの授業研究の趣旨である。