2013/05/29

質問しかしない話し合いが、なぜ「書くこと」の学習に有効なのか

現在勤務している学校では5年間実習生を指導してきている。
毎年たくさんの実習生の授業を参観したり指導してきていると、いろいろな授業の手法を学ぶことができるので大変有益だ。
特に、精錬授業ではほとんどの場合、生徒同士の交流(話し合い)が中心となる活動なので、話し合い活動の様々なパターンを学ぶことができる。
私と同年齢、同校種の教師で、私ほど色々なパターンの交流の授業を見てきた教師はそういないだろう。
そのなかでも、うまくいった交流とうまくいかなかった交流はもちろんある。
比較的うまくいくことが多いのが、下記に紹介する「質問し合う交流」だ。

今日の精錬授業は島崎藤村の「初恋」を扱った授業だった。
「初恋」の詩を、連ごとに日記形式に書き換えて読みを深めるという趣旨の授業だ。
本時の展開では、「構想メモを交流し合い、詩の内容を生かした『日記』を書こう」という課題。
作品の構想について作者が提案し、それについていろいろと質問し合って交流するというのが中心的な学習活動となる。

交流は、よく、完成した作品を読み合う相互批評というものが多いように感じる。
それでも確かにいいと思うけど、交流が作品に反映されにくいというデメリットがある。
できあがった作品について感想を述べ合うといっても、特に対立する意見を言うことなどありえないので、和やかに一言ずつ言って終わりというのがおきまりのパターンだ。

その点、交流を、作品の完成前に位置づけるといろいろと効果的だ。
たとえば、書く前の、構想段階で交流を設定するのだ。
構想段階で、作者は自分の完成作のイメージを他の人に語る。
他のメンバーは、それに対して質問をしたり助言をしたりする活動を行う。
これは、本を作るときの「編集者」と「作者」のやりとりと似ている。
「編集者」は「作者」が書きたい思うものを引き出し、完成作の具体的な見通しが立つように支援をする。「編集者」と「作者」とで共同的に作品を作り上げていく。
「書くこと」の学習においても、編集者と作者の共同的な関係性を、生徒同士の話し合いの中で実現させていくのだ。

この「編集会議」の手法は、ライティングワークショップ(作文ワークショップ)に取り組まれている、筑波大附属駒場中高の澤田教諭の実践によって提案されたものである。
澤田教諭は『質問会議』(清宮 2008)から「質問を通して内省を深める」という作文カンファレンスの手法を提案した。それがこの「編集会議」だ。
「編集会議」では、作者は自分の作文の構想を述べる。それに対してグループのメンバーは意見を一切差し挟まず、ひたすらそれに対して質問をしていく。
作者は質問に答えていくうちに、自分の構想のあやふやな部分や、読者が注目している部分に気づかされていく。それが作文の記述にも生かされていくというのだ。

この「編集会議」の手法は非常に強力で、私もエッセイの作文指導の際に澤田実践をアレンジして「作者と読者の交流会」を実践した。
そのときの学習活動は次のようなものだ。

「単元 『私もエッセイスト』 作者と読者の交流で作品を高め合う」の授業から


○今日の交流のねらい
 エッセイの書き方を検討し合い、エッセイの書き方を学ぶ。

○ポイント
 交流では、とにかく、作者にたくさん話してもらうことが大切。
 質問を通して作者の考えを明確にさせたり発想を広げたりさせる。
 作者の立場に立って、制作で悩んでることとか課題をともに解決する。
 本人も気づいていないおもしろさを引き出す。(といいな)

交流の流れ


①作者から内容の説明
「これから●●さんのエッセイについて検討していきます。
 まずエッセイの内容について作者から説明をしてもらいます。」


②感想の交流
「つぎに、順にこのエッセイについての感想を言ってください。」



③質問・アドバイスの交流
「ではこのエッセイをよりよくしていくために読者から作者へ質問やアドバイスをしていきます。
 ○○さんどうですか。」

質問の例
 (1)理由や意図を尋ねる

 「なんでこれについて書こうと思ったの?」
 「ほかに書こうと思ったのはないの? これに決めた理由は?」
 「どうしてこういう話の順番にしたの?」
 「この順番がベストだと思う理由は?」
(2)よくわからないところについて、もう一度聞く
 「●●って言葉の意味がわからないんだけど、どういうこと?」
 「いま言っていた●●●について、もう少し詳しく話してくれる?」
 「この体験談(エピソード)はエッセイの中でどういう役割を果たすの?」
(3)書き手の表現したい内容や構成について確認する
 「このエッセイを通して一番伝えたいことはどんなこと?」
 「これを表現するために、どんな体験談を取り上げるつもり?」
 「この伝えたいことと体験談はどういう言葉でつなげるつもり?」
(4)相手の返答を、要約して、確認する。別の言葉に言いかえる
 「それってつまり、こういうこと?」
 「たとえば、言い換えると、それは○○っていうこと?」
 「じゃあ、ここでの君の狙いはこういうことにあったわけ?それでいい?」
 
(5)別の可能性について考えてもらう
 「●●君だったら●●の経験とかを書けばいいんじゃない」
 「●●以外の体験談とかはないの?入れたら文章の印象が変わらない?」
 「●●を体験談で取り上げるなら、自分の考えは●●●にしたらどう?」
 「この体験談の逆の体験はある? それを入れてみたらどう変わるかな?」
 「この作品って、実は●●を中心にして書くとおもしろくならない?」
 「ここでエッセイの流れをこんなふうに変えたらどうなる?」 
(6)今後の予定や計画について尋ねる
 「実際に書く時は、どの場面をとくに詳しく書くつもり?」
 「この体験談の中には、どんな会話とかが入るの?」
エッセーは、作者の個性的な考えや発想を、具体的なエピソードなどを通して語る文体である。
そこで、エッセー中のエピソードの位置づけや、そこでの作者の意図などを質問によって浮かび上がらせようとしたのだ。

注意すべきなのは、この質問項目は、エッセーの創作だからこそ通用する質問だ。
意見文や物語であれば、文種の特性に応じて、他の質問内容にアレンジしないといけないだろう。