2013/05/21

これからの時代に求められる「共創の交流」~論考「交流」その1~

学習指導要領に「交流」が設定された経緯
 新学習指導要領の改訂に大きな影響を与えたのが、OECDの提示した学力観であるキー・コンピテンシーであるとされる。
キー・コンピテンシーについてはこちらなどを参照。

これは知識基盤社会ともいわれる今後の社会を生き抜いていくための「鍵となる能力」としてOECDが提案してい三つの力のことである。
 この三つの力の一つに「異質な集団で交流する力」が設定されている。

 学習指導要領国語科の指導事項の中に「交流」が新設された経緯のひとつとして、このキー・コンピテンシーの交流の記述が契機となっているのは間違いない。
 新学習指導要領国語科改善の基本方針の中に次のように書かれている。
 自ら課題を設定し・基礎的・基本的な知識・技能を活用し、他者と相互に思考を深めたりまとめたりしながら解決していく能力の育成を重視する。 
「他者と相互に思考を深めたりまとめたりしながら解決していくこと」が国語科における「交流」の本質である。
これからの国語の学習では、個の学びだけでなく交流を通してお互いに学び合うことが、今まで以上に求められることになるだろう。

共創の交流
 それでは、国語科の学習活動の中で、どのような交流が求められるのだろうか。
交流の望ましい姿とはどのようなものなのだろうか。
 国語科の学習の中で求められる交流の姿として、「共創の交流」というコンセプトを提案したい。

 寺井正憲はキー・コンピテンシーで「交流」が取り上げられている意義を明らかにし、これからの時代に求められるコミュニケーションについて次のように述べている。
 相互作用的に道具を用いることはPISA型読解力が含まれ、異質な集団で交流することにはコミュニケーション能力、自立的に行動することは課題解決に関わる能力といえる。PISA型読解力と言えば、解釈や熟考、評価という言葉からもわかるように、考えや意見を確かに持つ個を育てようとしている。自立的に活動するのも個を強化することだろう。しかし、個を強化すればするほど個と個の異質性、他者性は高まり、それが摩擦や軋轢、対立となって顕在化する。そのような状況において、自分を失わず、他者も尊重し、互いが協力して新たな意味を構築するようなコミュニケーションがこれからは必要となるに違いない。(寺井正憲(2010)「交流活動を促す学習形態の工夫」『月刊国語教育研究』No458) 
寺井正憲は「交流」のあるべき姿として、「自分を失わず、他者も尊重し、互いが協力して新たな意味を構築するようなコミュニケーション」を提示している。
 このようなコミュニケーションについて寺井と問題意識を共有しているのが山元悦子である。
 山元はコミュニケーションのあるべき姿として「共創的コミュニケーション」というモデルを提示している。
自分の思いをわかりやすく筋道立てて伝える情報伝達コミュニケーションも大切である。また、異なる考えの接点や統合をはかりながら問題解決的・合意形成をしていくコミュニケーションも大切である。しかしそれらのコミュニケーション行為を進める上で土台となっているのは、共創的なコミュニケーションを営もうとする資質や技能の育成ではないだろうか。具体的にいうならば、それは他者と意見を交わし合う中で自分の漠然とした考えが確かになり、新しい発想を得、お互いの力がプラスの方向に補完しあう共創のディスカッションを進めていく能力である。 
(山元悦子(2008)「共創的コミュニケーションの育成を目指して ―教室コミュニケーションの構造―」『月刊国語教育研究』No.434)  
寺井、山元の両者に共通しているのは、コミュニケーションを伝え手、受け手のただの言葉のやりとり(情報伝達コミュニケーション)としてとらえるのではなく、伝え手・受け手が相互にコミュニケーションをすることによって新たな意味を創造する点(共創的なコミュニケーション)を重視しているところである。
 単なる情報の伝達を超え、相互に意見を交わし合う中で新たな意味を生み出すコミュニケーション。これこそが、これからの時代に求められるコミュニケーションの姿である。「共創の交流」とは、このような交流のことととらえている。