2014/01/21

「文学の交流スキル」仮説試案序説

文学は人によって解釈が異なることが多い。
だから、交流することによって読みが広がったり深まったりする。
しかし、「交流のスキル」そのものが十分に身についていなかったり、ざっくばらんに話し合える関係性にない場合は、その交流が上手くいかないことも考えられる。
「交流のスキル」を身につけさせ、習熟させることと、その交流によって読解・鑑賞の質を上げることはおそらく比例をするだろう。

近年、ブッククラブなどの名称で、交流を前面に出した文学鑑賞の方法が取り入れられている。
ブッククラブの優れたところは、シンプルな方式で、学習者達が自立した読書人として育っていくことができるように設計されているところだ。
教師主導であれやこれや発問や指示をして(指導をして)、文学を深く読ませることは確かに可能だろう。しかし、教師主導「でしか」文学が鑑賞できないのだとしたら、何のための文学鑑賞の時間だろうと思う。
文学鑑賞指導の究極の目的は、子どもたちが教師の手を離れて、自分で本を手に取り、文学を味わう方法を身につけることではないか?

そこで、「文学の交流スキル」というものを仮に設定して、子どもたちが主体的に、文学の感想を交流し合えるスキル身につけるためには、どのような学習ができるか検討してみようと思う。

「文学の交流スキル」は二つの軸がある。
交流の機能を見極めることと、文学鑑賞の切り口を見いだすということだ。

A「交流の機能」の側面
交流(ここでは話し合いを主に想定しているが)は、お互いの発言が、どのように交わされるかによって、おもに5つの機能を持つ。
交流によって、意見を広げていくのか、それともまとめていくのか、批判的に深めていくのか、などの方向性を意識しあいながら話し合うことはとても重要なことである。
この交流の機能は、交流の形態(ワールドカフェなど)や人数を検討することよりも、より本質的に重要な要素である。
どのような話し合いの形態をとるかということよりも、話し合いにどのような目的や方向性があるかということを意識することのほうがずっと大切だ。

5つの「交流の機能」
①共感的交流……お互いに認め合う交流
②累積的交流……情報を増やしていく交流
③連鎖的交流……情報が連鎖的に広がっていく交流
④探索的交流……情報が収束的にまとまっていく交流
⑤批判的交流……クリティカルにお互いに意見を交わし合う交流

この五つを「交流のタイプ」として、話し合う時にお互いが意識できていると良い。
この交流の5つの機能については、以前の投稿内容を参照して欲しい。

B、「文学鑑賞の切り口」の側面
つぎに、交流でどんなことを話題にするかという「鑑賞の切り口」を設定することも、文学鑑賞において重要な要素となる。
鑑賞の切り口の視点は二つある。
一つは、読者(子ども)の読後反応(感想)に立脚するということだ。
教師が作ったどんなに優れた発問でも、それが子どもが自然と持つような発想でない場合は、やはり選択すべきではないだろう。
自分にとって切実でない問いは、読み進めようという気にはなりにくいし、教師が作った発問でしか読めない読者を育てるということにもなってしまうからだ。
子どもから問いを持たせても良いし、ある程度選択肢を出して、そのなかから選ばせるということでもよい。子どもが主体的に切り口を選択するという視点は不可欠だろう。

二つめは、作品の魅力に迫る切り口を選択すると言うことだ。
作品に直接関係のない話題で交流しても仕方が無い。それでは雑談になってしまう。
やはり、その文学作品の本質に迫る「ツボ」というものがあって、その文学作品の魅力を最も引き立たせるポイントを探しだし、そこに焦点化させて交流していくようにすること効果的であろう。

それでは、子どもが文学を鑑賞するときに持つ切り口にはどのようなものがあるだろうか?
ここで、岩瀬直樹氏のブログ記事 2014-01-21 メモ ブッククラブのために。に掲載されていた質問集の内容を参考に考えてみる。

岩瀬氏の「質問集」の内容は以下の通りだ。

★読む前に
・本のタイトルからどんなお話だと想像しますか?
・本の表紙、裏表紙の絵から何がわかりますか? どんなお話だと想像しますか?
・この作者の他の本を読んだことはありますか?どんなお話でしたか?

読んでいる途中に
★感想
・どこが面白かった?どこがつまらなかった?
・どこが印象に残った?それはなぜ?
・どの登場人物が好き?どの人物がきらい?それはなぜ?


★書いてあることの確認
・今回の範囲のあらすじは?
・だれがでてきた? ・どんなことが起きた?
・ここまでの話を整理すると~
・登場人物はどんな性格?どんな外見?それはどこからわかる?


★読んだことで考えよう
・ここがよくわからなかったんだけど~
・自分が考えていたこと(思っていたこと)が変わってきたんだけど~みんなはどう?
・なぜ登場人物は~のような行動をしたのか?からのようなことを言ったの?
・なぜ作者は~のような書き方をしたのだろう?
・なぜこんな表現にしたのだろう?
・「なぜ~?」
・この後どうなるだろう? その理由は~
・前回の予想と同じだった?違った?なぜ違ったのだろう?
・この登場人物が変わってきたのでは?どのように変わったというと~、なぜ変わったかというと~
・登場人物のとった行動(言ったこと)に賛成?反対?どう思う?
・もし自分がこの人物だったら~  
・自分が作者ならこんなストーリーにするな。こんな風に書くな。
・似たような経験ある?
・登場人物同士の関係が変わってきた?どのように変わった?それはどこからわかる?
・○○と○○を比べてみると、
・作者はこの文から(この章から)何を伝えたいのだろう?
・何がこのお話の大事なポイントだろう?なにが大事な話し合いのテーマだろう? 

★読み終えた後に
・この本は好き?嫌い?点数を付けるとしたら?その理由は?
・誰におすすめする?
・この作品の結末に賛成?反対?結末についてどう思う?
・作者が伝えたかったテーマは何だろう?そのテーマについてどう思う?
・登場人物はどのように変わった?なぜ変わった?
・自分ならどんなタイトルにする?
・この本で覚えておきたいことは~

★話し合いの途中で・・
・もっとくわしく教えて
・どこからそう思った?
・どこに書いてある?
・今のに付け足しだけど
・賛成!その理由は~
・私は違うふうに考えたんだけど、それは
・例をあげてくれる?
・その理由は?
・もう一回言ってくれる?
・○○はどう思う?
・もう一度読む時間とって整理する?
・というと?(オープンクエスチョン)

この岩瀬氏の質問集は、見てわかるように、ブッククラブのプロセスに沿って、子どもの発言を例示している。
この質問集の優れたところは、ブッククラブで実際に交わされた発言を集めていると言うことだ。
このような資料は、実際にやってみないとなかなか知ることができない。とても貴重なデータであると言える。

ただ、この質問集を、たとえばリストにして例示するとしてどのような方法が最も適切だろうか?
私だったら、子どもたちが、話し合いの切り口を探す時にそれを支援するような形で提示できれば意いいのではないかと思う。
たとえば、上記の質問集を、次のような「交流の切り口」と「合いの手」に沿って再編集し直すのだ。
たとえばこんな感じだ。

◎「交流の切り口」カード
A、「人物設定」カード
気になる登場人物は……です。
私はこの登場人物が好きだ!
この人は多分こんな人だと思う。

B、「ストーリー、プロット」カード
一番好きな場面は……
もしこのとき……が……だったら

C、「表現」カード
気になる表現は?
なぜこんな言葉遣いをしているのだろう?
この言葉を言い換えるとしたら

D、「テーマ」カード
この作品はどんなことを伝えたかったんだろう?

E、「番外編」カード
・似たような経験がある
・どんな人に勧めたい?
・本の装丁は?


◎「つっこみ」メニュー
・もっとくわしく教えて
・どこからそう思った?
・どこに書いてある?
・今のに付け足しだけど
・賛成!その理由は~
・私は違うふうに考えたんだけど、それは
・例をあげてくれる?
・その理由は?

などなど。(上記の岩瀬氏のコメントをすべて上手に整理すれば、なかなか優れた「交流の切り口」集ができそうだ)

さらに、付け加えると、作品を鑑賞するためには、学習用語を押さえておくことが必要になる。
文学の交流で使える用語集のようなものも合わせてカードなり、リストで提示しておけばいつでもそれを使いこなすことができるようになるだろう。

(文学の鑑賞 学習用語)
・登場人物
 主人公
 対役
 チョイ役・脇役
・語り手(話者)

・設定
 時間・場所・人物

・構成
 冒頭・結末・中盤・クライマックス・起承転結

・文体
 会話文・地の文

・主題
 葛藤・矛盾・アイロニー(皮肉)・象徴・作者・思想

などなど。
こういう学習用語や鑑賞の切り口は、国語教育において、文芸研や分析批評、読み研などでさんざん検討されてきた。それらの知見を参考にしつつ、子どもの目線で使いこなすことができるように加工することが必要だ。なるべく、発達段階に即してちょっと背伸びした用語や切り口を例示し、それを使ってみたくなるような環境を与えると良いだろう。

どのように活用していくか?

さて、「交流のタイプ」、「鑑賞の切り口」、そして「学習用語」の三つのツールが出そろった。
それらを、実際にどのように活かしていけば良いのだろう。

たとえば、次のような活用法を想定している。
4~6人ぐらいで読書会を開くとする。

全員が「学習用語のメニュー」を持っている。
「切り口」カードがテーブル上に、カルタのようにばらまかれている。
テーブルの上には「話し合いのタイプ」のリングが5つ用意されている。

一人一人、話す人が、順番に「切り口」カードを取って、みんなに見せながら、話し合いを進めていく。そのとき、選択したカードは、任意の「話し合いのリング」に置く。
この「リング」は「話し合いのタイプ」にリンクし、5つのリングを設定する。(リングって言うのは、プロレスのリングのことね)
次の5つのリングの中から、話し合いの進め方としてもっとも適切であると思われるものの上に置くのだ。
・共感リング(共感的交流)
・増やすリング(累積的交流)
・つなげるリング(連鎖歴交流)
・まとめるリング(探索的交流)
・バトルリング(批判的交流)
このように、5つのリングが「場」に用意されている。
たとえばこんな感じ。
「一番カッコイイ登場人物」について「バトルリング」で話し合う。
「印象に残った場面」について「共感リング」で話し合う。
「この人は多分こんな人」ということについて「まとめるリング」で話し合う。
のように。

このようにして、話し合いたい「切り口」と「交流のタイプ」を、各自で設定して話し合いを進めていく。
このシステムの良いところは、話し合う切り口とタイプを子どもたちが主体的に選択できるところだ。
そして、カードやタイプの量を調節することで、学習の方向性をあらかじめ教師が設定することもできる。

たとえば、教師が事前に、今日は「登場人物の設定」カードの中から選んでね。登場人物について話し合うんだよ、とか、今日は「バトルリング」と「共感リング」だけ使うからね、というように、あらかじめカードを操作すれば良い。

理想的には、やがては、それら切り口と機能を、カードやリングなどを使わなくても、意識しながら話せるようになることだろう。

以上「文学の交流スキル」仮説の試案の序説。
どんなものだろうか?
思いつきレベルだけど、ブラッシュアップすればなかなか良いものができあがるような気がするのだけれども。