2014/07/13

質的研究「談話分析」に挑戦

研究の手法は大きく二つに対比される。質的研究と量的研究。

とてもざっくりと言ってしまえば、量的研究とは、現象を「数」で表し(数値化)し、統計などの手法を用いて、膨大なデータを処理し「仮説を検証」していく方法。
「テストで100点取りました!」っていうのはテストの点という「数字」で表現し、それを統計的に処理して量的に学力を評価したと言うことになる。

一方、質的研究とは、現象を「言葉」で表現して、少数のデータからでも希少な意味を見いだし「こんなことは言えませんか?」という「仮説を生み出していく」方法。
たとえば、「学力がめきめき上がる子は、どのように学んでいるか」というテーマを取り上げたとして、その学力が上がった子をインタビューして、その「語り」を対象にしたり、勉強の様子を「観察」したりして、意味を見いだしていく。
このように質的研究のメリットは、統計的な「平均値」でははかれない、希少な知見や、より現象をリアルに浮かび上がらせるためには有効な手法である。
……ほぼ100パーセント聞きかじり&知ったかぶりなので、質的研究について詳しくは、以下の入門書を読んでみて欲しい。どれも分かりやすかった。
質的研究の本質を初心者向けに分かりやすく語る。「実況中継」方式の入門書。



質的データの取り扱いについてとても丁寧に説明されていて分かりやすかった。
質的研究が独断に陥らないような「勘所」のようなところを、まさに「かゆいところに手が届く」までに説明をされている

こちらは主に教育研究に特化した質的研究の入門書。
教育現場で使われやすい事例と分析の実際が出ていて参考になる。
なお、著者のこのサイトが元になって出版されたそうなので、以下のサイトも参考にされると良いだろう。( http://web.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~ysekigch/qualmtd.html )

で、今回取り組んだのが質的研究の手法のうち「談話分析」とよばれる分析だ。(質的研究にはインタビューや参与観察など「現象を言葉にする」ための多種多様な方法がある)
「談話分析」とは、話されている言葉を対象として、そこから新しい知見を引き出す研究法である。教育分野だけでなく、言語学や文化人類学等、様々な領域で使われている一般的な研究手法らしい。
授業におけるコミュニケーションを扱った一冊。「教室談話研究」にも触れられている。大学のテキストなので網羅的だが、参考文献なども紹介されているので一通りの入門的知識は得られる。(絶版)


談話分析は手間がかかるけど、本当に面白い。子どもがどのように言葉を交わし合い、学び合っているのかがよく分かる。(反対に、今まで自分はなにも分かっていなかったんだと思ってショックだった)「子どもから学ぶ」ことをこれほど実感できる研究法はないだろう。面倒だけどこれからも談話分析をして、子どもの学びの実際を知りたいと思った。

私が取り上げたのは「中学生はどのように古文を解釈しているか」という研究主題。
この主題を解明するために、古文をグループで話し合いながら解釈している様子を記録して分析を試みた。
「談話分析」をするためにはどのような手間がかかるか簡単に説明したいと思う。(もちろん、専門家から言わせれば手順が違う!とか突っ込まれるかもしれないが、一つの例として)

ボイスレコーダーと付箋が大活躍!

1、話し合いの様子を録音する。
学校にはグループの数だけボイスレコーダーがある。それを使って全グループのテーブル上にレコーダーを置き録音をした。
(もちろん、録音するだけでなく、授業の様子もしっかり観察して、気になることは忘れないうちにメモしておく)

2、話し合いの様子を文字起こしする。
この手間が非常にめんどくさい。が、ここさえ乗り越えてしまえば、あとは楽だから辛抱して欲しい。
・まずは一通りレコーダーを聞く。(倍速機能などがあれば便利)
・聞きながら、「なんか気になる!」と思うグループをチェックしておく。
・分析の対象とするグループを決定する。
(もちろん、なぜそのグループを選んだかという説明ができないといけない)
・分析の対象とするグループの録音をひたすら文字起こしする。
(パソコンの音声入力機能があれば便利。MacでもWindowsでもデフォルトで音声入力の機能は入っている)
・文字起こししたら、それをエクセルの表に整列させる。
(これはやってもやらなくてもいい。エクセルの表に入れ込むと、話している人物によって色分けしたり、ソートすることがやりやすくなる)

以上、ここまでが準備段階。
ここから分析を始める。私の分析の手法は、いわゆる「KJ法」ですね。

3、話し合いの文字起こしを解釈し意味を生み出す
この段階が最も面白い。談話からなにが分かるか、どんなことが言えそうか、どんな意味が立ち上がってくるかをひたすら追求していく。
・文字に起こされた会話をじーっと読み込み、そこからどんなことが考えられるか、とにかく気づいたことを片っ端から付箋に書き出し、会話文のところに貼る。
(あとで取捨選択すればいいので、まずは大量に書き出すことが重要。忘れないうちにどんどん書く。もちろんそのときに、研究テーマである「中学生はどのように古文を解釈していったか」という問いを意識しておく)
・書き出した付箋をいったんバラバラにする。(脱文脈化というらしい)
・バラバラにしたもの関連性などを考えてグループに整理する。
・グループを包括する見出しを考えたり、グループを関連づけて構造化したりする。(再文脈化という)
・それらの構造化されものから、研究主題に関する新たな意味や知見を引き出す。

最後がはしょりすぎて何のことを言っているのかわかりにくいと思う。
(実際自分でもまだよく分かっていない)
ここからは私見だけど、子どもたちの会話の様々な言葉からどう意味を引き出し、どう有効な知見とか価値を見いだしていくか、実践上の「観」のようなものを言語化するための方法として、談話分析や質的研究はとても有効な方法だと思う。
しかし、数字で語らせる量的研究よりは、質的研究は教育現場では認知度が低いし、少数のサンプルで語らせるこの方法は、よほどの説得力がないと信憑性を持って伝えることが難しいと言うことはある。多くの人に納得され、「使って」もらえる知見を提供するためには、数字で証明すること以上に「ごまかし」はきかない、「研究者」としての分析の力量が問われる方法だとは思う。
(ちなみに、こういうKJ法のような分析の手法についても、質的研究は百花繚乱、ありとあらゆる方法が開発されている。コンピュータを使った分析のようなものもあるらしい。KJ法はほんの一例だと言うことを申し添えておく)

ちなみに、今回の談話研究では、次のようなラベルをつけて分析をしてみた。
まだ未定稿なので全文は紹介できない。また、本当は発話の具体例が示されているのだが、ここでは割愛する。今後、ここからさらに分析を整え、論文を洗練させていきたいと思う。

実践研究レポート「中学生はどのように古文を解釈していったか」より
グループの話し合いの考察
 話し合いの様子から、共同で解釈を進めることを可能にした話し合いの要素として、A 共同解釈の進行についての発言と、B 文章の推論についての方略の二つの側面から考察をする。

A 共同解釈の進行についての発言
 「共同解釈の進行についての発言」とは、グループで助け合って解釈を進めていくために有効と思われる発言内容のことである。この学習活動では、個人が思い思いに古文を読み取っていくのではなく、チームワークで課題を解決することが求められる。対象としたグループでは、個人の能力を最大限に引き出し、協力して取り組むことができるような様々な発言が交わされていた。

① 連鎖・付け足し発言 
 共同で解釈しているプロセスがよく表れたのが「……で」「……で」という言葉でつないで、バトンタッチしながら解釈を進めていく発言である。あたかも一人の人間が読み進めていくかのように、グループのメンバーが、・・・・・(以下略)

②質問・突っ込み発言
 交流の中で、発言に対してすかさず疑問や突っ込みが飛び交う様子もよく見られた。①の連鎖、付け足し発言と同じく、お互いの言葉を聞きあい、関わり合って解釈を進めていく様子がよくわかる。とくにこのグループでは・・・・・・・・

③つぶやき発言
 ××さんの発言はとても興味深い。時折、話し合いの本筋とは関係ない感想やつぶやきが漏れることがあるが、このようなつぶやきを発言できることが、・・・・・・・・・・・

B 文章の推論をするための方略
 「文章の推論をするための方略」とは、意味がとりにくい古文を理解するときに、どのようなやりかたで解釈を進めていくかという方法を表している。
 グループの話し合いを分析すると、以下のような推論の傾向が見られることがわかった。

①細部棚上げ方略
 話し合いの傾向として見られたのは、とりあえずの読みを出し合い、それを共通の土台にして読み進めていくという方略である。具体的に、厳格に意味を詰めていくというよりも、細部はとりあえず棚上げし、・・・・・・・

②見なし・置き換え方略
 ××の発言で顕著に見られるのが、自分たちになじみのある人物やキャラクターに古文の登場人物を見なして理解しようと試みていることだ。・・・・・・「

③結末から類推する方略
この発言に見られるように、このグループの推論過程では、「落ち」が何であるかを考えながら解釈が進められていることがわかる。とくに話し合いの中盤で、・・・・・・・・・・・・・