2013/07/16

「批評」の授業をどう構想するか

「批評」の根底にあるのは対象への「問いかけ」

 「批評家」とか「評論家」と聞くと、何となく「自分では何も生み出さないくせにけちばかりつける人」というイメージがつきまとう。
 「批評」には「揚げ足を取る」とか「難癖をつける」「冷たい」というイメージがあるようだ。
 この「批評(クリィティシズム)」の根底にあるのは「批判的思考力(クリティカルシンキング)」。
「批判的思考力」も伝統的な国語教育の世界ではすこぶる評判が悪い。
だいいち「批判的」という言葉からして悪い。これはふつう「非難する」という意味で使う言葉だ。だから「批判的思考」というと「頭ごなしに批判する」という誤解を誘発する。「批判的思考」とか「批評」ということばは、まだ、日本語としてこなれていないのだ。「批評」に対するこの世間一般の認識は、日本人の思考にとって、とてもマイナスであると思う。
 批判的思考力は、ものごとを表、裏さまざまな面から検討し尽くし、他面的に探究することをいう。
 欧米では批判的思考力と同列に、創造的思考力(クリティカルシンキング)・論理的思考力(ロジカルシンキング)の3つを併置させることが一般的である。
 創造的思考力の根本は「生むこと」(創造)
 論理的思考力の根本は「つなげること」(関係づけ)
 そして批判的思考力の根本は「問うこと」(省察)にあると考えている。
 なぜか、本当か、正しいか?
 そのように、常に対象に問いかけ続けることこそ批判的思考力の根本であり「批評」であると思う。
 「批評」を授業の学習として展開させるためには、いかにして子どもが対象に対して「問いかけ」をするようになるか「学びの仕掛け」を作ることにあるのだろう。

  「批評精神」というものがもしあるとするならば、作者(テキスト)と対話してみたいという気持ちを指すのかもしれない。テキストに対して賛同したり反感したり、くってかかったり評価したり。たとえ批評スキルが未熟でも、批評精神が旺盛な人間は、批評を表現し、それを他者にさらしていくことで批評力も高まっていくように思う。

 批評に関わる「読解力」の記述で分かりづらいのが「熟考」。
この熟考は英語にすると「Reflection」という。これは、反射とかふりかえりという意味がある。テキスト(他者)と対話し、フィードバックを得てメタ認知し、自己の考えをどんどん深めていって、更新していくことととらえることもできる。
 「読解力」は、自分の考えを述べる「批評」を重視している。自分の考えには正解はない。つねに自分の考えは他者(または自己内他者)によって否定され、そして止揚していく。
「批評」もまた、絶え間ないReflection(反射・ふりかえり・メタ認知)によって更新されていくべきものなのではないか。

「批評」の授業をどう構想するか

「批評」の授業のポイント
1、批評の定義
 批評とは,対象とする物事や作品などについて,そのもののよさや特性,価値などについて,論じたり,評価したりすることである。(学習指導要領国語科解説より)
 
・批評文の特徴
 テキストのどの部分を取り上げたようとしているか「引用」あるいは「根拠」が示され、
その引用されたテキストに対する分析や説明などの「解釈」を含み「解釈」をもとにした「評価」が表現される。
 
◇すぐれた批評とは何か
 ・テキストへの深い理解や解釈から生まれる批評
 ・テキストに新しい光を当てる批評
 ・テキストの魅力を引き出す批評
 ・批評の新しい方法、新しい表現が見られるもの
  →批評とは、テキストという鏡を通した自己表現でもある。
 
2、批評の方法
①〈批評のスタート位置の設定〉批評の目的や自分の立ち位置を明確にする。
 ・何のために批評するか、何を、どのように批評するか、課題を把握し、目的意識を持つ。
  (教師が課題を与え、方向付けをすることが多い)
 ・さらには、自分がどういう立ち位置で批評しようとしているか、批評する時点での自分の考え  や立場を明確にすると批評がよりクリアになる。
  (言葉の定義づけ、批評する前の自分の見解、批評する自分の立ち位置など)
 
②〈テキストを観察し、解釈する〉そのものの良さや特性、価値などをつかむ。
  批評するためには、その対象を的確につかみ、解釈することが必要である。
 (何を)
  ・書かれている内容
  ・かかれた表現(語句・描写・構成など)
  ・作者の意図、メッセージ
 (どうする)
  ・観察する
  ・分析する
  ・比較する
  ・統合する
  ・知識や経験と関連させて考える
 
③〈テキストを評価する〉作品の特徴をつかみ、そのよさを論じたり、評価したりする。
  評価の観点(批評の切り口)を決める
  テキストは、評価の観点から光を当てることで批評をすることができる。
  批評の目的から照らして、どのような評価の観点を設定すればよいか考え、
  適切な評価の観点を設定して分析的、客観的に評価を下す。
  A、評価の観点を決める→B、解釈する→C、評価する
  ABCを往還させて批評の制度を上げていく。
 
3、批評の学習のポイント
 ①「批評文」のイメージを持たせる
  批評文の要素が入っている例文を提示して、意見文や感想文との違いをつかませる。
  意見文……自分の意見を主張する文章
  感想文……自分の感想を述べる文章
  批評文……ある対象やテキストに対する自分の評価を述べる文章。
 
 ※中学生が読んでもわかるような批評文のサンプルが必要!批評文を書かせるためには、批評文の文章構成や批評文特有の語彙、書き出し文を与えることが有効では?
 
②適切なテキスト
 学習者にとって愛着が持てたり、身近なテキスト
 さまざまな人によって評価が分かれるテキスト
 どのような解釈をも包み込む懐の深いテキスト
 学習者が批評したいと思えるような手頃なボリューム(内容のレベル・文量など)のテキスト
 国語の学習として価値のあるテキスト
 
③鋭い批評の観点を設定する
 どのような問を持ち、どのようなり切り口で読んでいくかが最も重要。
 中心となる観点は、次の3つ。この3つを,テキストにそってカスタマイズすることが必要。
 ・このテキストからどんなメッセージを受け取ることができるか
 ・そのメッセージをどのような内容で表現しようとしているか
 ・その内容を、どのように表現しているか、表現の効果は?
 
④批評に交流を生かす
 批評は、多様な解釈とふれあうことでより客観性を増し、説得力のあるものとなる。
 批評を豊かにするための仕掛けとして交流活動を行うことはとても有効。
 
 例えば、以下のような交流のタイミングがあるだろう。
  ・テキストをグループで選択する。
  ・テキストについてのそれぞれの感想を述べ合う。
  ・批評の観点の候補をグループで出し合う。
  ・一つのテキストを協同で評価する。(ジグソーを組む)
  ・観点にそって解釈した内容をグループで交流する
  ・評価した結果を交流し合う。
  ・批評文を読み合い、表現内容について交流する。