2013/07/29

「話し合いましょう」撲滅運動~「交流」を学習活動に生かすために考えて欲しいポイント~

「『話し合いましょう』撲滅運動とは、物騒なタイトルです。
が、気をひくためにちょっと盛ってタイトルをつけてみました。
つまりは「話し合いましょう」というだけでは「話し合い」はできない、ということを伝えたいわけです。

でも、「さあ話し合いましょう」と先生が言って、生徒たちが途方に暮れている「話し合い」って結構よく見かけると思うんですよね。自分もそんな失敗を(今でも)数多くしてきています。
「さあ話し合いましょう」といってスムーズに話し合いができるのならば、素人だって授業ができます。しかし実際は(特に中学生は)、そう簡単には話し合いに取り組まないのが現実なのではないでしょうか。
 「さあ話し合いましょう」と投げかけるだけではなく、もう少し具体的な手立てができないものか。話し合い(交流)を成立するためにはどのようなことを教師が考えなければいけないのか、つらつらと考えてみたことを「『交流』を学習活動に生かすために考えて欲しいポイント」としてまとめてみました。是非参考にしていただければ幸いです。


1.交流を活かした授業作りの視点

交流を活かした授業作りの視点1
 【交流の基本原理】
  •  交流を行うための前提として、お互いが「違い」を認め合い、関わり合って学ぶことのできる人間関係の土壌作りが必要です。
  •  お互いの「違い」を理解し、認め合ってますか。
  •  「違いから学びが生まれる」ということの意義や価値を理解していますか。
  •  どんな生徒とも、お互いに関わりあって学ぶことができていますか。


 交流をしあって学ぶことで一番大切なのは、学習者である生徒自身が、お互いに「違い」をわかり合い、その違いを乗り越えて新たな意味や価値を生み出すことを理解していることです。
 能力の差や意見の相違などを乗り越え、互いを尊重し合って、他から学ぼうという意欲がわかない限り交流による学びを成立させることは難しいでしょう。
 そのためには、日頃から、お互いの差異を尊重し合い、学び合うことの価値や意義が感じられるような活動を、教師が意図的に設定していくことが必要となるでしょう。そして授業以外でも、学級の中で気軽に質問し合ったり、意見を言い合えるような、和やかな人間関係ができるように、教師が意識していくことが重要なことはいうまでもありません。
 また、違いから学ぶ交流を進めるためには、学習課題にも配慮が必要です。お互いの優劣が際立ち、「優等生」などの特定の生徒だけが常に活躍するような活動は慎むべきです。優劣の差ではなく、お互いの違いがプラスにはたらくような課題設定を心がけるべきでしょう。
 お互いの違いや葛藤があればあるほどよいのが、交流を生かした学習の基本的な原理です。お互いの違いに目をつぶり、同調したり、画一化したりするような活動では、交流が十分に学習に生かされることはありません。
 もっとも、クラスにこのような和やかな人間関係がないからといって、交流を一切授業に取り入れるべきではないと言っているのではありません。はじめのうちは、交流がぎこちなくてもよいのです。交流をする負荷が低く、楽しく意欲的に取り組めそうなものから取り組んでいき、徐々に、誰とでも交流ができるような関係性を作っていけるような、長期的な視点を持った指導が必要だと思います。

○授業作りのヒント
 「人間関係作り」という視点も含めた学習活動を意図的に設定しましょう。

 グループエンカウンターやワークショップのアイスブレイクの手法などは交流の授業作りに活用できます。
 はじめは交流の負荷が低い活動がおすすめです。

 匿名で読み合って他の人のよいところを指摘し合うような、認め合いや褒め合いをメインにした交流から取り組んでみたらいかがでしょう。



 交流を活かした授業作りの視点2 
 【言語活動の特徴】
  •  交流は言葉を交わし合うことで行われます。それらの言語活動の違いや特徴をふまえて交流に取り組むようにしましょう。
  •  話し合いと書き合いとでは交流の質は異なります。その違いを理解した上で交流に取り組ませていますか。
  •  感想・意見・質問など、「話し合い」とひとことで言ってもさまざまな言語活動が含まれています。これらの中の、どのような言語活動をさせるのか区別していますか。 


 言語活動の表現様式に応じた特徴を見極めて交流に取り組むをことが効果的です。
 たとえば、交流には話し合って(聞き合って)交流する場合と、書き合って(読み合って)交流する場合があります。この場合は音声言語(はなすこと)と文字言語(かくこと)の違いや特長を十分に吟味することが必要です。
 お互いに説明しあう場合、「話して」説明するのだったら、相手の反応を見て、柔軟に説明する言葉を言い換えたり、理解度を確認するようなやりとりができるように取り組ませていきたいものです。また、「書いた」もので相手に説明をするのだったら、読んだだけで理解できるように、言葉が不十分で伝わりにくくならないように配慮して書くなどの意識も必要となるでしょう。一番最悪なのは、書いている文章を、ただ読み上げているだけの交流です。これでは書き言葉も読み言葉も、どちらのメリットも生かされません。
 話し言葉や書き言葉だけでなく、言語活動にはさまざなな種類があります。たとえば、感想や意見、質問など、それぞれに交わす言葉に違いがあります。その違いを区別して、どのような言語活動をしていくのか明確にさせることが必要です。

○授業作りのヒント
 交流は「話し合い」だけではありません。

 「書き合い」や「読み合い」も立派な交流です。
 付箋にコメントを書いて貼ったり、作品を回し読みしてコメントを書き合ったりするなどの「読み合い」「書き合い」も有効です。
 「話し合い」による交流では、状況に応じて臨機応変に変化させる柔軟性や、熱意を持って語ったり、意識を集中させて傾聴することなどのノンバーバルな要素も重要になってきます。
 たんに「話し合いましょう」と指示するのではなく、「紹介し合いましょう」「助言し合いましょう」「意見と理由を述べ合いましょう」「質問し合いましょう」のように、具体的な言語活動を提示することと、交流がぐっと締まったものになります。


 交流を活かした授業作りの視点3
【交流の機能】
  •  交流にはさまざまな機能があります。その機能を明確に意識し、ねらいにそった交流を行うことが大切です。
  •  何のために交流をしているか、目的は明確ですか。
  •  そのために、どのような言語活動を組み合わせていますか。交流の機能や言語活動の設定を、意図的に組み合わせていますか。


 交流にはさまざまな働き(機能)があります。
 交流の目的や機能について、コミュニケーション構造を分析した渡辺通子(2008)の論*1を参考に、学習者相互の関係性や異質性の違いが、どのように交流に働くのかを分類し、以下のように交流の機能を整理してみました。


交流のパターンとその機能
A、共感的交流
 お互いのよいところを指摘しあったり、たたえ合うタイプの交流です。
 お互いが作った作品などを見合ったりするときの交流に適しています。
(交流の目的)相互に認め合う・わかりあうための交流。学び合うコミュニティーの形成。
(交流の機能)他者を受容し理解する。良いところを認め合う。
                                 
B、累積的交流
 意見を持ち寄り、どんどん増やしていくタイプの交流です。
 ブレインストーミングなどのアイデア出しの話し合いや、多様な観点から意見を出し合って広げる交流に適しています、
(交流の目的)互いに多様な意見を出し合い、ものの見方や考え方を広げる。
(交流の機能)発想を広げる。拡散的に思考を広げる。

C、連鎖的交流
 他の人の意見につなげて広げていくタイプの交流です。
 マッピングなどで情報を広げていくような話し合いに適しています。
(交流の目的)他と発想を関連させつつ発展させていく。
(交流の機能)発想を関係づけて広げる。連想する・関係づけをする。

D、探索的交流
 テーマや課題に向けて、意見をまとめ上げたり、絞り込むタイプの交流です。
 グループで一つのことを決めたり、意見を言い合ってまとめる話し合いが適しています。
(交流の目的)一つのテーマに沿って考えを深めたり、まとめたりしていく。
(交流の機能)情報を収束させる、認識を深化する。意見を合意形成する。

E、批判的交流
 お互いの考えに対して意見を言ったり、反論や評価を述べ合うタイプの交流です。
 討論(ディベート)や相互評価などの交流に適しています。
(交流の目的)観点をもって相互に考えを述べ合ったり評価(批評)しあったりする。
(交流の機能)観点に沿って評価する。批判的思考(クリティカルシンキング)をする。

 このように、交流には、お互いがどのような目的や意識で関わるかによってさまざまな機能があることが分かります。
 交流を生かした学習に取り組む際には、何のために交流をするのか、どのように交流をするのかという目的や機能を明確にさせて取り組むことが必要です。この目的や機能が散漫な「話し合い」を設定してしまったら、生徒たちは、何のために、どうやって話しあったらいいか混乱してしまうことになります。

○授業作りのヒント
 交流をするさいは、たとえば次のように「交流の機能」を意識した教師の言葉かけが有効です。
A、共感的交流
 「それぞれの作品のよいところを指摘しあいましょう」
 「お互いの意見の中でいいなとか、参考になったなと思うのものを言い合いましょう」
B、累積的交流
 「お互いに考えを出し合い、なるべくたくさんの種類の意見が出るようにしましょう」
 「一つの見方だけなく、さまざまな見方や考え方ができないか、話し合いましょう」
C、連鎖的交流
 「他の人の意見につなげて、関連した自分の意見を言い合いましょう」
 「……というテーマに関連づけて、質問したり意見を出し合ったりしましょう」
D、探索的交流
 「……という点から、最も優れているもの(適しているもの)を話し合い、三つに絞りましょう」
 「お互いの意見の中で、共通する要素をまとめて一つの文で表現しましょう」
E、批判的交流
 「……というテーマについて、お互いの意見を検討し、質問や反論をしましょう」
 「お互いの作品の優れているところや、改善した方が良いところなどを指摘し合いましょう」


2.交流の機能を課題解決のプロセスにあてはめる
 課題解決のそれぞれのプロセスにおいて、交流を活かすことができます。
 そのためには、それぞれのプロセスにあった交流の機能を選択し、展開させていくことが重要です。
 グループで新聞を作る活動を例に挙げて考えてみましょう。
 はじめに、どんな記事を書くか意見を出し合う段階で話し合いをするとします。この段階の話し合いでは、とにかくアイデアを数多く出し合う、【累積的な交流】を活かしたブレーンストーミングが有効でしょう。この段階では、意見を否定したり絞り込んだりしてまとめることはせずに、とにかくたくさん意見を出し合っていくのです。
 十分に意見を出し尽くした後で、たくさん出たアイディアの中で、よりふさわしい記事は何かを話し合ってまとめていきます。この段階では【探索的な交流】に取り組ませるようにします。
 記事が仕上がったあとは、お互いの記事を厳しい目で読み合って推敲や相互批評をしていきます。不適切な内容や表記は、ここで正さていきます。この段階では【批判的な交流】が活きてくることでしょう。
 最後に、完成した新聞を出版し、他のグループと交換して読み合いをしていきます。この段階では批判は禁物です。お互いに楽しく読む味わうことが何よりも大切にされないといけません。【共感的な交流】をして、お互いのよいところを積極的に評価しあえると、この新聞作りの学習での達成感をより高めることができます。
 このように、学習活動を効果的に行うためには、それぞれのプロセスで交流を取り入れることが効果的です。ただし、課題解決のプロセスにあわせて交流を設定し、交流がより効果的なものとなるように配慮することが大切です。