2014/09/05

作り手の立場にたって読む文学の学習は可能か? 〜「夏の葬列」授業記録 №1〜


「演劇で照明をやったことのある子は、人の舞台を見るときも、自然と照明の素晴らしさに目が行くようになる」とは、同僚の先生の言葉だ。
作り手の立場にたつことで、受け手としての見方も磨かれる。これには共感できる。
作り他の立場に立ってみることは、作品をより深く感受し、豊かに味わうことと矛盾しないだろう。

たとえばこれが文学の場合はどうか?
文学を味わうとき、作り手の立場にたって読み解く学習をしたとして、これが同様に成り立つだろうか?
作り手の立場にたって読む読み方は、文学作品を享受するときの感動を否定する活動になるのだろうか?
こんな問題意識から、文学の学習をスタートさせた。

今日から「夏の葬列」を読み進めていく。
提案内容は、「創作」と「読解」をつなぐ学習活動
小説を読みながら、「表現の仕掛け」を読み取り、読み取った「表現の仕掛け」を小説の創作にも生かしていこうという学習。

単元の主な学習の流れは次の通り
1、(一斉指導)「夏の葬列」の表現の仕掛けを分析する。
2、(秋休み中課題)各自で小説の表現の仕掛けを調べる。
3、(グループ課題)「空中ブランコ乗りのキキ」「麦わら帽子」(その他未定)のテキストから一つ選び、表現の仕掛けを分析する。
4、短編小説の構想を練る。創作は冬休み?

表現の仕掛けの視点は次の通りだ
・構成(ストーリーとプロット、クライマックスなど)
・登場人物(キャラクター設定)
・描写・レトリック
など。ちょっと本を読んで調べたけれども、まだまだ山のようにあるみたい。
これらの「表現の技巧」をいかに絞り込んで生徒に学ばせていくかが課題。
羅列して伝えても意味は無いし。
このへんの小説の構造やディティールを味わう視点のようなものを、適度に教え込みすぎない程度に伝授しつつ、子どもたちが自力で見いだしていくような学習にしていきたいと考えている。




一時間目 「夏の葬列」を読む
今日は「夏の葬列」を読む最初の授業だった。
次のような授業を行った。
1 文学(小説)の読み方を思い出す。
 今まで学習してきた、または読書生活の中で身につけ、意識してきた小説の読み方をシェアしていった。
 ○次のような意見が出た。
  登場人物の人間関係を掴む。
  登場人物の心情を理解する
  登場人物になりきって読む
  情景を読み取る
  比喩や暗示しているものが何かを考える
  クライマックスにつながる「伏線」をつかむ

2 冒頭を読む
 つぎに、「夏の葬列」の冒頭の段落だけをプリントしたものを与え、そこから何が読み取れるか、どんな話になりそうかを考えていった。
提示した冒頭の文章
 海岸の小さな町の駅に降りて、彼は、しばらくは物珍しげに辺りを眺めていた。アーケードのついた明るいマーケット風の通りができ、その道路も、硬く舗装されてしまっている。はだしのまま、砂利の多いこの道を駆けて通学させられた小学校の頃の自分を、急に生々しく思い出した。あれは戦争の末期だった。彼はいわゆる疎開児童としてこの町にまる三ヶ月ほど住んでいたのだった。
 ーーあれ以来、おれは一度もこの町を訪ねたことがない。その自分が、今は大学を出、就職をし、一人前の出張帰りのサラリーマンとして、この町に来ている……。
 東京には、明日までに帰ればよかった。に三時間は十分にぶらぶらできる時間がある。彼は駅の売店でたばこを買い、それに火を付けてると、ゆっくりと歩き出した。

 ○教科書ではたった十行に満たない文量だけども、なかなか面白い意見が出た。
  次のとおり。

  • 時代は1960年くらい?
  • 場所は海岸沿いの街
  • 戦争時代の話が出てくるのでは?
  • 彼はもう大人になっている。
  • 「たばこを買い」とあえて書いてあるところから、大人になってやっとたばこを 吸える年齢になったということを表しているのかも。
  • 「通学させられた」とか「なまなましく思い出す」ってあるから、あまり学校時代にいい思い出がなかったのかも。
  • たった三ヶ月しかいなかったところに、あえて再び訪れるというのは何か深いわけがあるのかもしれない。

作者にとっての冒頭の効果は、いうまでもなく二つ。
読者を作品世界に惹きつけることと、作品の設定を伝えるということだ。
この二つを目的に、作者は十分に配慮して気合いを入れて書くのが冒頭である。
読むときにはそれを念頭に入れて、冒頭で、どうやって読者を惹きつける工夫をしているか、どうやって設定を伝えようとしてるかを読み取る学習ができるだろう。

3、教師の範読を聞く

4、設定を確認する
 作品を理解する大前提としての設定を確認していった。
 時間 戦争中と戦後
 場所 海岸の小さな町
 人物 彼・ヒロ子さん・ヒロ子さんの母・葬列に参加している人(子ども)

5、初発の感想を書く
 7〜10分程度で200字の感想を書き、残りの時間はそれをお互いに読み合った。