2015/06/13

「読書感想文」という得体の知れないものを外国人児童に伝えるなら

誰しもがうすうす感じているだろうけど、「読書感想文」のあの文体はきわめて学校文化的なものである。いろいろな「お約束」が内包されている。
そういう「お約束」をマスターした人だけが「読書感想文が上手!」と評価される。
そういう生徒はひょっとしたら「感想文が上手」なのではなくて「学校の、教師の意図を読むのが上手」なだけかも知れないけど……
しかし、そういうお約束を「読む」ことのできない生徒に分かりやすく伝えるためにはどうすればいいのだろうか。たとえば学校にいる外国人生徒に「読書感想文」を説明するとしたら、何を説明すればいいのか。

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※以後はフィクションであり、実在の読書感想文コンクールなどとは一切関係ありません。あしからず………

どんな本を読めばいいの?
好きな本を取り上げればいいというものではないよ。そこ重要だから!
「JR時刻表」、「プログラミングの仕方」みたいなマニュアル本も「本」なんだけど、そういうのはふさわしくない。辞書とか百科事典もなし。雑誌も不可。ミステリーも難しいかもね。マンガなんてとんでもない!!! ボーイズラブ系、だめにきまってるでしょ!
絵本……微妙だなあ。あまり薄い本だと手抜きしていると思われるかもね。分厚い本を読むと「頑張ったね」っていってもらえるかもよ。
反対にウィトゲンシュタインの哲学書みたいな背伸びしすぎる本を選んでも「中学生らしくない」って思われるかもね、
課題図書か、国語の教科書に載っているような作家の小説、またはノンフィクション系で「努力すると報われる系」とか、環境問題などの社会問題を扱った本がいいよ。

どんな感想を書けばいいの?
感じたことを何でも書けばいいというわけではないよ。
「この本なげーよ」とか、「外人の登場人物の名前が覚えられない」とか「漢字が多い」というのは感じたことであっても「感想文」には書かないでね。
あくまで、読んで感動したこととか、社会や生き方について考えさせられたことなどを書くべきね。

批判は厳禁
感想文は「肯定的な感想」を書くようにね。
「つまらない」とか「読んだら時間の無駄だった」なんていう本は選んではいけない。
批評家ではないんだから、読んで面白かった本、読んで感銘を受けた本を選ぶように。
普段そういう本を全然読んでなくて、感想文を書くためだけに読んだ本でも、それを「面白かった本」「読んで感銘を受けた本」ということにして書くこと。

読んだら成長しました!
「本を読んだら成長した」っていうことを書くのがおすすめ。
本の内容紹介じゃなくて、本を読んで変わったというあなたの「成長」を書くの。本を読んだくらいで成長できるのか?っていうツッコミはなし!「読書をすると人は成長するものだ」と日本の社会では思われているから。
本を読むまえは……だけど、読んだら……になった。とか、読んでこんなことをしてみました、という「本を読んだあなたの成長物語」を創作できるといいね。
普段そういう本を全然読んでなくて、感想文を書くためだけに読んだ本でも、「それを読んで成長しました」ということにして書くこと。

反社会的なことは書いてはダメ
思春期だからいろいろなことを感じるかも知れないけど、間違ってもそういうことを書いてはダメ。
泥棒をしてみたくなったとか、人を殺したくなったとか……
そういうのは「成長」って言わないよ。そういうことを書いたら、先生が心配しちゃう。
「先生が読んでいる」ということを常に念頭に置いて、大人が安心してくれたり喜んでくれるような成長物語を書くようにね。

あなたの感想の量にかかわらず、文量は決まっている
「感想文の量」は規定で決まっているから、どんどん感じることが出てきても絶対に規定の5枚以内におさめなければいけない。感想がそんなになくても、なんとか5枚に引き延ばして書いてね。
コンクールで入賞したいなら5枚の最後の行まで書くこと。そうしないといくら内容が立派でも、文量が足りていないと評価されないから。
なぜ5枚なのかって??? そんなの先生に聞かないで。知らない。

「読書感想文」は誰に向けて書くの?
実際に読むのは学校の先生とコンクールの審査員です。
でも「審査員さん読んでください!」ってあからさまに書いたらNG.
中学生が誰も読まなくっても、建前は同じ世代に向けて書くものなのです。


……ってね、そんなホンネを子どもには伝えられません。ひねくれた大人になっちゃうかもしれないから。