2013/08/17

本を紹介することの意味~「ビブリオバトル」改善プラン~

人が好きなことを語っているのを聞くのは楽しい
どんなものでも、その人が大好きなことについて語っているのを聞くのは好きだ。
たとえば、
大好きな本のこと
大好きな料理のこと
大好きな鉄道のこと
大好きなテレビドラマのこと……などなど。
私にとってほとんど興味のない分野のことであっても、他の人が、自分の大好きなことについて熱く語っているのを聞くと、とつい耳を傾けたくなる。そして質問をしたくなる。
私は好奇心が強い方なので、自分にとって未知の分野を知りたいと言う気持ちがある。
しかし、それ以上に、その人が、何をどのように愛しているかを知ることによって、その人のことを深く理解できるような気がするからだ。

本の紹介は、本を読んでもらうことが目的ではない?
本の紹介もそれに似たところがある。
自分は読書傾向がおそらく偏っているようなので、話題の本とか、売れている本とかはほとんど読まない。むしろ読もうとしない。
失礼ながら暴露すると、人から紹介された本は、実際のところ全ては読めない。いや、読みたいとは思うんだけど、ほかにも読みたい本、読まなければいけない本が山のようにあって、どうしてもそれを読むまでの余裕がまわらない。
もっと失礼なことには、人から、「これいいから読んでみて!」と貸してくださることがあるんだけれども、そういう本はほとんど読めずに本棚に積まれていてそのまま……いつか読もうと思っている気持ちだけはあるので、いつになっても返さずに……なんていうパターンがほとんどだ。

でも本を紹介しているのを聞くのは、とっても大好きだ。
本の紹介を聞いて、きっと読むことはないかもしれない本の題名のメモを思わずとってしまっている。

本の紹介は、ひょっとしたら本を読んでもらうことが目的なのではなく、本を通してのその人を知ることに意味があるのかもしれない。
その人は何が好きなのか、何を考えているのか、どう感じる人間なのか……本という鏡を通して人となりを知ることができる。その、「人に対する興味」が本の紹介にはあるのだろう。

私も本を紹介するのは好きだ。
本を紹介したときに、それを聞いた人が、その本を手に取ってくれるのはとてもうれしい。何か、心が通じ合ったような気さえする。
本を紹介することは、他のもの(たとえば、おすすめのラーメンとか、おすすめの文房具とか、アプリとか)の紹介とは、全く意味合いが異なると思う。
本の紹介は、自分の考え方とか感じ方を、相手に手渡すような気さえする。
だから、(あまりないけど)本を紹介したあとに、面と向かってイヤだと言われたり、拒絶されたら相当ショックを受けるだろう。自分の存在の一部を否定された気さえするかもしれない。

「ビブリオバトル」使用上の注意点
ビブリオバトルという「本紹介ゲーム」がある。
もともとは大学生が考案したゲームだ。
最近では、高校~大学院生が参加する大規模な大会も開催されるようになった。
(出版社などのバックアップもあるんだろうか)
公式サイト
ビブリオバトルの全国大会「ビブリオバトル首都決戦」のサイト

ビブリオバトルの【公式ルール】
  1. 発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる.
  2. 順番に一人5分間で本を紹介する.
  3. それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う.
  4. 全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員で行い,最多票を集めたものを『チャンプ本』とする.
ビブリオバトルとは、ようは「本紹介ゲーム」だ。
グループで本を紹介しあい、一番読みたくなった本を多数決で決めるというシンプルな活動だ。
手軽な読書活動なので、これから、大学や高校だけでなく小・中学校でも一気に広がっていく可能性が大である。(2013年8月時点)
ビブリオバトルのようなゲームを通して、本を紹介し合うことが気軽に行われ、日常的なものになっていくことはとてもいいことだと思う。

しかし、「本を紹介すること」にはどのような意味があるか。ということへの考えなしに、形だけゲーム感覚で飛びつくのはやや危険な気がする。
ゲームには競争や勝ち負けがつきものだ。しかし、それが加熱してしまい、生徒の意識が勝ち負けに集中してしまうようになってしまっては逆効果だろう。
紹介した本が、多くの人に支持されて読まれることを目的とするのは。本の作者や、本屋さんや、出版社の発想ではないか。なぜ私たちが出版社のように競争しなければいけないのだろうか。多数決によって「勝ち負け」を決める必要があるのだろうか。
紹介した本を、できれば手にとって読んで欲しい、しかしそれ以上に、たとえ読まれなくても、本の感動を伝えたい、本の魅力を伝えたい、そして、この本が好きな自分という人間を受け入れて欲しい思う気持ちのほうが、勝ち負けを求める気持ちよりも自然なのではないか。
「本を紹介すること」の隠された意味は、「自分について知ってもらうこと」にあると思うからだ。
だから、自分にとっての思い入れのある本を他の人に受け入れてもらう経験を誰にでも味わって欲しいと思う。自分が紹介した本が、みんなから否定されるような経験はできればさせたくないという思いがある。
高校生や大学生ほど精神の耐性がないのが小中学生だ。ただでさえ、自己肯定力が高くなく、そしてそれほど本が好きではない生徒が、このような熾烈な競争のようなものに参加させられたら、一気に読書嫌いになってしまう可能性すらあるのではないか。考えすぎだろうか。
取り扱いにはよくよく注意する必要がある。

本紹介ゲーム、わたしならこうする

たとえば、無作為な競争とか、価値観の拒絶にならないように、本紹介ゲームを次のようにカスタマイズしてみたらどうだろうか。

・匿名でチャンプ本を決める
純粋に本の紹介文だけを印刷して読みあい、どの本を読みたいか決める。
「誰が」という要素がなくなるのでややおもしろみには欠けるが、人気投票やプレゼン能力に左右されないというメリットはある。

・誰が紹介したかを当てる
これは、むしろ「誰が」という要素をクローズアップしたもの。
匿名の本紹介を読み、誰がこの本を紹介したのかクイズ形式で考えるのだ。
意外な人が、意外な本を紹介していたりして盛り上げるかも知れない。
お互いのことを知り合える活動にもなる。

・他の人の本を紹介しあう。
自己紹介ならぬ「他己紹介」のように、たとえば2人組で協力し合い、他の人が取り上げた本を代わりに紹介する。
お互いに本についての思いを共有し、理解しあってから、協力して売り込んでいく活動だ。

・グループで一冊の本を売り込む
上記の他己紹介をグループ単位に広げたもの。CMのようにしても面白いだろう。

・「チャンプ本」ではなく、誰にとっておすすめの本になるかを考えあう
万人に支持される本ではなく、この本だったらこの人に、とターゲットを明確にする活動。
「受験生向けの本ベスト3」とか、「部活動で頑張る君に送る本10選」のように、紹介された本をいくつかのカテゴリーに分類してみる。
個人でまとめても、グループで選んでもよいだろう。
ユニークな「くくりのフレーズ」を考え合う活動なんて楽しいかもしれない。