2013/08/03

単元「成人の日」の社説を批評する

Ⅰ 単元名
「成人の日」の社説を批評する~交流で広げる、深める自分の考え~

Ⅱ 単元の考察
(1)本単元で行う言語活動
本単元では複数の社説を比較しそれをもとに批評する文章を書く言語活動を行う。
批評とは対象とする物事や作品などについて、そのもののよさや特性、価値などについて論じたり、評価したりすることである。批評をするためには対象を分析、観察したうえで、自分の判断の根拠を示して評価し、論じることが必要である。批評はテキストへの深い理解や解釈を前提とし、それを主観的に享受するだけでなく、分析的、客観的にとらえる力が必要となる。そして、テキストへの評価を通して、自己のものの見方や考え方を明らかにしていく。そういう意味では、批評とはテキストという鏡を通した自己表現であるともいえる。批評の学習を通して、テキストと対話して自己のものの見方や考え方を明らかにし、それを深めていくことを目指していきたい。
新学習指導要領では3年「書くこと」「読むこと」の言語活動に批評が新設された。「書くこと」の批評は「テキストに基づいて自分の考えを書く力」(2005 読解力向上プログラム)に重きが置かれるcriticism(評論)としての批評の学習であり、一方「読むこと」の批評は「テキストを理解・評価しながら読む力」(同プログラム)が重視されるreview(書評)としての批評に近い。いずれにせよ批評の本質は、自分なりの問題意識を持ってテキストと向き合い、それを通して自分の考えや評価を明らかにすることであり、その根底にあるのは批判的思考力(クリティカルシンキング)であろう。
この批評の言語活動を成立させるためには、どのようなテキストが適切で、どのような学習活動を
組織すればよいのだろうか。
批評のテキストとして学習に適しているのは、学習者にとって手頃な質や量であり、理解や解釈がそれほど難しくないもの、なおかつ興味や関心をひくものがよい。そしてどのような解釈をも包み込む懐の深いテキストで、さまざまな人によって評価が分かれるものであると学習が活性化する。
そこで、本単元では批評のテキストとして複数の新聞社が書いた同一のテーマの社説を取り上げる。
社説は新聞記事の中でも批評、評論的な要素の強い文章である。毎日の記事の中で代表的な出来事や世相を取り上げ、その出来事などをもとにして論説委員が新聞社としての見解を表明する。新聞の中でも各紙ごとに特色が最も鮮明に出るのが社説である。本単元では成人の日に書かれた社説を9種取り上げる。この社説には新成人を取り巻く社会の情勢と現代の若者像、そして新成人へのメッセージがとりあげられることが多い。少しでも若者に関心を持って読んでもらおうと名言や詩を引用したり流行曲を取り上げたりと工夫をこらしたものが多い。中学生にとって社説は必ずしも易しい文章ではないが「成人の日」の社説ならば親しみをもって読み進められることと考える。それだけではなく「成人の日」の社説は、まさに大人と子どもの中間に立つ中学生たちにとって読む価値のあるテキストであると考えている。大人とは何なのか、大人に対して社会は何を求めているのかを知り、自分なりにそれを受け止め、考えるきっかけとすることができるからである。若者たちに向けられた社説を自らに向けられた問題として捉え、社会に目を向け、ものの見方や考え方を深めることのできる批評へと導いていきたい。
「成人の日」の社説と出会った子どもたちはどのような批評を生み出すのだろうか。第1に、若者へのメッセージに対する批評が考えられる。このメッセージに説得力があるか、若者にとって必要なメッセージか、筋が通っているかなどが評価の観点となる。第2に、現代社会や若者への理解に対する批評が考えられる。現代社会や若者の姿を的確に捉えているか、偏見や誤解がないかなどが評価の観点になるだろう。第3には、社説の文章表現に着目した批評が考えられる。詩や流行曲、名言や歴史的人物、テレビドラマなど、さまざまな引用が社説の中で工夫されている。若者に語りかけるような文体のものもある。これらの表現が、新聞社が若者に向けてメッセージを伝えるための手段として効果的かどうかを評価することができるだろう。
それでは、これらの批評の言語活動を行うためにはどのように学習を組織すればよいのだろうか。
批評の学習活動の流れとして①テキストの観察、②テキストの分析・評価、③評価の交流、そして④批評文を書くことの四つのプロセスを設定している。
まず①テキストの観察では、批評の観点である文章表現の工夫、社説のメッセージ、若者像と「大
人」の生き方、現代社会のとらえ方の四つの視点を提示し読ませていく。また、社説から疑問に思ったことやコメントを自由に書き込ませていく。
②テキストの評価では主に表現と内容の二つの軸でランキング形式にして四つの社説を選び、それについての評価を考えていく。
③評価の交流では自分と異なった評価をした生徒でグループを組み意見を交流させていく。この交
流は相手の評価を批評する批判的な交流として行う。自分が判断した評価を他者に伝えるためにはある程度客観的に説明できることが必要である。また、自分の評価に対して他の生徒がどのように受け止めたかを知ることで、自分が評価するポイントを再確認することができる。また、他の生徒の多様な評価に触れることで自分が選んだもの以外のテキストの魅力に気づくことも期待できる。この交流では他の生徒との考えの違いを否定的にとらえさせるのではなく、違いから学び、違いを楽しむ交流になるように意識させていきたい。そしてこの交流を通して自分の解釈や批評を広げたり深めたりできるように導いていきたい。
④批評文を書くことでは①~③までの評価してきたことがらを活用して、批評の切り口となるテーマを設定し批評文を書いていく。たとえば、テーマとして「大人たちのメッセージを批評する」「説得力のある社説の条件とは」「『大人』の生き方とは」「『成人の日』の社説から世相を斬る」などのテーマを例示して生徒の発想を支援する。批評のテーマが決まったら構想表を用い、社説の中から必要な情報や考えを取り出し、それに対する自分の考えを整理して文章の構成を考えていく。
批評文はテキストのどの部分を取り上げているかを明示した引用か、あるいは根拠が示されて、そ
のテキストに対する分析や説明などの解釈をしつつ、自分の考えや評価を表現する文章である。批評文の基本的な構成として、複数の社説の共通点や相違点を比較するものや、評価する要素を抽出して列挙する方法がある。また発展的な構成として、文章に対する「問い」から切り込んで自分の考えを深める構成や、社説を批評しつつさらに発展させて自分の考えを深める構成も考えられる。これらの構成を活かした教師自作の批評文のモデルを提示し、生徒たちに具体的にイメージを持たせたうえで500 ~ 800 字程度の批評文の表現につなげていきたい。

(2)本単元でつけたい力
本単元では比べ読み(読むこと)と批評(書くこと)の言語活動を行う。
比べ読みの言語活動を通してテキストの表現上の工夫や効果をとらえ、観点に沿って比較し分析する力を養っていきたい。また批評の言語活動では比べて読んだテキストの優劣を表現内容や表現形式などの観点を設定して評価するとともに、テキストから採り上げた問題について自分の考えを根拠をあげて論じる表現力を高めていきたい。
批評文の文体は解釈するテキストの引用または紹介が取り上げられ、その引用された部分についての分析や説明などの解釈がなされ、解釈をもとにした評価が示される。批評文を書くためには、対象とするテキストの特徴を理解し、評価の観点を決めて批評する力が必要である。批評文を書く際には、発想・構想段階で交流を取り入れたり、教師自作のモデル文を提示したり、批評の文例や語彙、批評の観点を例示したりすることで学習を支援していきたい。

(3)継続した学習
批評文につながる学習として、一年生では鑑賞文を書く学習を行った。その学習では、詩とそれを基にした合唱曲を取り上げ、その魅力や印象を文章にまとめる活動をした。鑑賞する対象の特徴をつかみ、そこから感じ取れることをもとにして鑑賞する文章を書く力を養った。また二年生では、批評の試みとして、短歌や俳句を創作したあとに交流して味わう句会を行い、相互批評をする学習を行っている。詩歌のすぐれた表現を取り上げつつ、観点を決めてお互いに評価し合う活動を行った。
本単元では1・2年の学習の成果を生かして、社説を比較し評価をする学習につなげていく。なお、
新聞についてはすでに三年生の学習で投書の比べ読みをして自分の意見をまとめる学習を行っているが社説を取り上げるのは初めてである。時事的な話題に対する社説は、中学生には難しい内容のものが多いが「成人の日」という、比較的親しみやすい題材を取り上げることで抵抗感を軽減させ、なおかつ社会生活にも目をむけさせることができるように配慮していきたい。
批評文については、関連する学習として二年生でエッセイの書き方を学んだ。そこでは、自分の思
いや考えを具体例となる体験をとりあげつつ表現をする学習をした。また3 年生ではプレ単元として「それはトンボの頭だった」(穂村弘)を読んで批評文の特徴についてとらえ、「ドラえもん短歌」を短文で批評する学習を行った。本単元では質量共にややボリュームのある社説をテキストにし、それを解釈して評価の切り口を決定し、社説を引用して自分の考えを論じる批評文の学習につなげていく。

Ⅲ 単元の目標
(1)社説に表れた社会生活の事柄について,自分の立場や意見を明確にして評価したり文章を書こうとしたりする。(関心・意欲・態度)
(2)適切な資料を引用して,説得力のある批評の文章を書くことができる。(書くこと)
(3)社説を読み比べ、内容や表現の仕方について評価することができる。(読むこと)
(4)和語・漢語・外来語などの使い分けに注意し、語感を磨き語彙を豊かにすることができる。
(伝統的な言語文化と国語の特質に関する事項)

Ⅳ  指導計画
第一次
成人の日の社説を観察する。( 2 時間)
○ 単元の概要を知る。
○ 主に次の視点に注目して社説を読み込む。
 A 文章表現の工夫
 B 社説のメッセージ
 C 若者と「大人」
 D 現代社会

第2 次
「成人の日」の社説を分析・評価し、批評を書く。(4時間)
○「成人の日」の社説を、表現と内容に着目して「マイランキング」を設定する。
 表現に着目した評価(どちらかを選択する)
  A 文章表現に工夫が見られる
  B 社説のメッセージに論理的な説得力がある
 内容に着目した評価(どちらかを選択する)
  C 若者と「大人」の生き方を考えさせられる
  D 日本社会の現状や未来の展望がわかる
○各自が評価したことを交流し、それを参考に批評の切り口を決定して批評文の構成を考える。
○適切な資料を引用して,説得力のある批評の文章を書く。

第3次
学習の意義をふり返る(1時間)
○書いた文章をお互いに読み合い、単元で学んだ成果をふり返る。